研究室のこれまでとこれから

奈良女子大学高エネルギー物理学研究室の活動は1968年に始まりました。





泡箱実験の時代

 この研究室の活動が始まったはじめの10年間、私たちは泡箱実験の解析を行いました。1978年には泡箱写真自動測定装置を導入し、この研究室の研究、教育基盤を整備しました。また、女性の学生をKEK(旧:高エネルギー物理学研究所、現:高エネルギー加速器研究機構)の実験現場に派遣し続けることで、日本における女性研究者の高エネルギー物理学分野への進出に大きく貢献しました。


トリスタン実験の時代

 1980年代に入って、当時の世界最高エネルギーの電子&陽電子衝突実験だったトリスタン実験(KEK,日本)の準備を開始しました。トリスタン実験では、私たち奈良女子大学はトパーズ測定器(*1)グループに参加し、ビームラインに一番近いところに設置される「最前方カロリーメーター」の開発と検証を担当しました。特に2代目のカロリーメーターでは、BGO(ゲルマニウム酸ビスマス)シンチレーターを用いて設計することにより、エネルギー分解能を大きく改善することに成功しました。この測定器により、高精度での測定が可能になりました。この結果、例えば、QEDの結合定数αが60GeVという高エネルギー領域では1/129と大きくなっている(*2)ことを確認するなど、物理現象の解明に大きく貢献しました。
また、高エネルギー2光子衝突反応の物理解析を研究室の中心課題として進め、Resolved Photon process(*3)の存在を明らかにするなど、新しい知見を得ることができました。このように実験終了まで、このプロジェクトを積極的に推進していきました。

(*1)トパーズ測定器とは中央飛跡検出器としてタイムプロジェクションチェンバー(TPC)を使い、多粒子の軌跡を直接三次元的に測定、電離量の測定により電子・パイ中間子・K中間子・陽子の識別を行うことができる多機能の検出器。(KEK HPより引用)
(*2)低エネルギーで確認されている結合定数αの通常値は1/137。
(*3)Resolved Photon process…実光子同士の高エネルギー散乱現象において、光子がクォークやグルーオンを内包する寄与のこと。




現在:Bファクトリー実験と原子核衝突実験

 1994年から、B中間子の崩壊過程におけるCP非保存を測定することを最大の目的としたBファクトリー実験:Belle実験(KEK,日本)に参加しています。測定器の建設期間中は、電子や光子のエネルギー測定を行うCsIカロリーメーターの試作器の製作とビームテスト実験、CsI結晶シンチレーターの放射線損傷測定、温度湿度電源電圧モニターシステム、波形整形部エレクトロニクスなどを担当しました。ビーム衝突実験が始まってからは、B中間子の崩壊とτレプトンの崩壊に関する物理解析を行っています。
 そして現在、Belle実験は2010年にデータ取得を終え、ルミノシティを40倍にし実験精度を高める為にアップグレードされた新たなBelleⅡ実験が始まっています。本格的な物測定理実験は2019年3月から始動しています。

 更に、私たちはBelle実験だけでなく国外の国際共同実験にも活動のフィールドを広げています。現在ブルックヘブン国立研究所(BNL)で行われたPHENIX実験や、欧州原子核研究機構(CERN)でのALICE実験にも参加しています。詳しい実験テーマについては以下のリンクをご覧ください。

この研究室でできること