素粒子とは、物質の究極の構成要素のことを指します。物質はみな分子でできていますが、その分子は複数個の原子の結合によって、原子は中心の原子核の周囲に電子が束縛されることによって構成されています。原子核が陽子と中性子からできていることは多分ご存じでしょう。
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(図1)極微の世界の階層構造
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現在では、その陽子や中性子もクオークと呼ばれるさらに小さな粒子からできていることがわかっています。現在我々が素粒子と呼んでいる電子やニュートリノあるいはクオークは、その大きさが100京分の1メートル以下であることがわかっています。(図1)ちなみにここで出てきた「京」は「兆」の1万倍ですから1京は1のあとにゼロが16個ならびます。「素粒子」の小ささとは何と途方もないものでしょう!
このような極微の世界を探るには、とても高いエネルギーの粒子が起こす衝突反応を用います。なぜって?低いエネルギーだと表面をなでることしかできなくて、物質の究極の構成要素、つまり「芯」のところまで飛び込めないからです。これが素粒子物理学の実験的研究が高エネルギー物理学と呼ばれるゆえんです。
では、どのくらいのエネルギーが必要なのでしょうか?また、そもそも「エネルギーが高い」とはどういうことを指すのでしょうか?エネルギーの単位で、日常的に良く知られているのは「1グラムの水を1度温度上昇させるのに必要なエネルギーが1カロリー」ですが、これを電子ボルト(eV)という単位に直すと「1カロリー=2600京 eV」になります。たいへん大きな数字ですね。
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しかし1グラムの水には非常に多数の水分子が含まれているため、水分子1個あたりの取り分は、たったの1000分の1 eVにすぎません。ですから日常生活で体験する現象は大エネルギーなのですが、モノを構成する粒子1個あたりのエネルギーが小さい=低エネルギーの現象なのです。一方、素粒子の世界を探るには衝突反応に関わる粒子1個の持つエネルギーが 10 GeVから 1 TeV (100億 eVから1兆 eV)といったものでなくてはなりません!けた違いとはまさにこのことですね!
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(図2)高エネルギー粒子衝突反応 のイメージ図
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このように高いエネルギーの粒子どうしが衝突すると、単に物質の極微の構造を調べるだけでなく、自動的にもうひとつのご利益を得ることができます。アインシュタインの相対性理論が明らかにしたことの一つに エネルギー=質量×(光速の2乗)、つまりエネルギーと質量は等価だ、ということがあります。ですから衝突反応によって生成した高エネルギー状態からは、様々な粒子が新たに発生してくるのです!
本研究室のトップページにも使われているイラスト(図2)は、このような高いエネルギーの粒子が衝突反応を起こすときの様子を模式的に描いています。赤と緑の二つの小さな球は、それぞれ同じ色の矢印の向きに沿って走ってきて、衝突反応を起こす高エネルギー粒子を表しています。するとその結果として新たな粒子生成が起きるので、これを青と赤紫のやや大きな二つの球で表現しています。
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ビッグバン直後の宇宙は、現在の宇宙に含まれる物質全部がごくごく小さい領域にぎゅうぎゅう詰めになっていた非常に高温の(=エネルギー密度が高い)状態にあったと考えられます。そこでは、このイラストのような高エネルギー衝突反応は頻繁に起きていたでしょう。その際につくられた大質量(=重い)の素粒子は今の宇宙には残っていませんが、高エネルギー粒子衝突反応ではそうした宇宙初期に存在した素粒子を再び作り出してその性質を調べることができるのです!
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こうした研究の手法としては、まず加速器を使って電子や陽子といった粒子の集団を加速して高エネルギー粒子のビームをつくり、このビームを衝突点に導いて衝突反応させます。反応によって生じた粒子をのがさず捉えるために衝突点の周囲には粒子検出器を置き、その信号を高速エレクトロニクスとコンピューターで記録、解析します。こうした目的にかなう高エネルギー加速器や粒子検出器システムはたいへん高価かつ特注品ですので、大学の一研究室で所有できるものではありません。高エネルギー物理学は必然的に大規模な国際共同実験の形で遂行されます。各大学では、粒子検出器やそのエレクトロニクスの試作品の製作と試験、あるいは蓄積したデータの解析を共同研究者たちと密にコミュニケーションをとりながら行っています。とくにデータ解析については、コンピューター技術とネットワーク技術の発達のおかげで以前とは比較にならないほど便利な環境が実現されています。
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